
駅までの道で傘を忘れたことに気づいた。
できるだけ雨に濡れぬよう
軽く走ることは面倒だったけど、
頬を伝う冷たい雫が妙に心地よかった。
水たまりを飛び越えるための
ジャンプもどこか懐かしさを感じて
気持ちが弾んだ。
自分が生んだ不便だけど
失敗と名付ける気にはならなかった。
便利さが、時間をくれていたとしたら
不便さは、魂を与えてくれる。
ボタン一つで全てが済む世界なら、
僕はきっと人間らしさを捨てるだろう。
不便がそばにある。
それは僕が僕でいることだと言える。
面倒くさいな、とつぶやきながらも
僕は今日、人間ができたことを喜び歩く。
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